今年の夏の陽射しは“暑い”を通り越して、とにかく“熱い”。 かくいう僕は、猛暑日に祇園の八坂神社へお参りしたのはいいが、三年坂あたりで40℃近い暑さに見舞われ、汗だく朦朧となった挙句、口呼吸になってしまった。あと10分も歩いてれば、ぶっ倒れていたにちがいない。 とにかく脱水症状にならないよう僕が心がけているのは、水分補給だけでなく、食事でも夏野菜をしっかり採ること。キュウリやトマト、瓜といったみずみずしい野菜を使った料理や肴は、夏バテ対策にも効果があるのだ。 そんな夏野菜の中で、“泉州の水なす”は無冠の帝王だろう。
そもそも、なすびには水分が多い。「秋なすは、嫁に食わせるな」という諺があるけど、これは姑の嫁イジメの言葉じゃなくて、“お嫁さんの体を冷やしてはいけない”= 元気な子どもを産むためには、健康でなきゃいけないという意味だ。
「泉州農家の人たちは、畑仕事の合間に水なすをかじってノドを潤すねん。昔はなぁ、子どもらにとっては夏休みの定番オヤツやった。わしが小学校の頃なんか、これしか食わせてもらわれへんかったわ」 スイーツじゃなくて、なすびがオヤツかぁ。古き良き日本の暮らしだなぁ……と感慨した記憶がある。
「泉州には、全国的に有名な“岸和田のだんじり祭り”があるやろ。あの勇壮な山車を引き廻す練習が始まったら、地元の若い衆はノドが渇いて、体に塩気もなくなるさかいに、水なすの糠漬にかぶりつくねん。わしかて、そうやったでぇ!」 ちょっとドヤ顔になった親爺さんの横から、ほっかむりをした奥さんが口をはさんだ。 う~む、よもや真夏のビニールハウスで熱いノロケ話を聞かされるとは思ってもみなかったが、親爺さんは無冠の帝王的な、岸和田のあんちゃんだったのかもしれない。 「水なすの紫色とツヤを出すには、上手に葉を取って、日焼けをさせることが大事なんや。それに葉を取る時は、皮に傷がつかないようにせなあかん。デリケートなんや、水なすは。うちの嫁はんみたいにな(笑)」 |