僕の故郷である香川県は、昨年「うどん県」を宣言した。つまり、“讃岐うどん”の国であると謳ったわけだ。

B級グルメの魁としてブレイクして以来、「讃岐うどんを食べたい!」って人たちが陸続と瀬戸大橋を渡り、四国へやって来るようになった。
四国巡礼の旅をネタにして1日10軒ものうどん店をハシゴする“うどん遍路”まで企画される加熱ぶりに、僕のような讃岐人は唖然とするばかり。だって、うどんは香川県人にとって日常食で、オヤツみたいなものなのだ。

香川県には「うどんは、別腹(べつばら)」という諺がある。
小腹がへって「何か食べたい」とオフクロに頼めば、どこの家庭でも「ほんだら、うどんでも食べまい」とお決まりのセリフが返ってくる。それに、うどん店は県内に3000軒もあって、喫茶店でも当たり前にうどんがメニューに書いてある。まさに“犬も歩けばうどん屋に当たる”状況だ。

それぐらい、いつでもどこでも食べられるファーストフードと同時に、実は、讃岐という気候風土が生んだソウルフードなのだ。

讃岐の国は、古来から雨が少なく稲作が難しい土地で、灌漑用に地元出身の空海(弘法大師)が巨大な満濃池(まんのういけ)を作った伝説は有名だ。 今でも県内には水田用のため池がそこかしこに点在し、農家の大切な宝物として守られている。

つまり昔から日照りが続いたために米の収穫量が少なく、しかも年貢でほとんど取り上げられるので、庶民の口過ごしには麦や豆、雑穀しかなかった。だから麦を主食にすることで、うどんが普及した。ちなみに、うどんは空海が遣唐使として中国から持ち帰り、その原形は水団(すいとん)のようなものだったと伝わっている。

ところで、さぬきうどんの美味しさは、シコシコとした麺のコシ! ツルツルのノド越し!  ピカピカのモチ肌!だけど、僕はもう一つの脇役にこそ、本場の讃岐うどんの魅力があると思っている。

“いりこ”から作る、ダシ(つゆ)である。
いりこは香川県の瀬戸内海沿いで獲れる小魚(カタクチイワシの幼魚)の干物で、濃厚でうま味が強い。香川県では、味噌汁のダシにも定番だ。

今や日本中どこでも讃岐うどんは食べられるけど、東京のうどんはダシが醤油辛くて、大阪のうどんは反対に甘く感じる。その理由は、東京では東北の出身者が好む濃いダシ味になり、大阪は甘い油アゲの入った“ケツネうどん”が定番ってことからも分かる。 だから、“いりこダシ”のうどんは、やっぱり香川県でなきゃ味わえないのだ! 
つまり讃岐うどんの“無冠の帝王”だと、僕のDNAは実感している。
それはきっと僕が幼年期に、いりこをオシャブリがわりにして育ったからだろうなぁ。