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──転職先を確保せず、次に進むべき道など何も考えずに退社したが、「お前が望む商売の形は、いちばん身近な場所にあるじゃないか」という友人の言葉で身の振り方は決まった。秋山さんは実家に戻り、父の元で職人の技を学び、盗んだ。
「子供の頃からずっと親父の仕事ぶりを見ていたけど、道具を触ったのは、そのときが初めて。最初は、来る日も来る日も同じ作業でたいしたことはやらせてもらわれへんかったけど、物が出来上がっていく楽しさってあるでしょ。そんなんが昔っから好きだったからね。今日まで飽きずに続けてます(笑)」
──厳選した上質なヌメ革を化学薬品は一切使わず、植物から採れるタンニンでなめし、文字通りすべて手縫いで、ひと針ひと針仕上げていく。「馬場万」の革製品を寵愛したという版画家・棟方志功が生きた時代と変わらぬ製法と品質が、今の時代にもしっかりと受け継がれている。 |
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「職人は、慢心したらそこで技術は終わり。その点、僕の商売はいいですよ。10年前、20年前に自分が作った製品が修理で持ち込まれるでしょう。そうすると、どの技術が未熟だったかをまざまざと見せつけられるわけ。若い時分に、いっぱしになった気になって作った製品の中にはひどいものもあってね(笑)。顔から火が出るほど恥ずかしくて、回収したアイテムもいっぱいあるんだけど、まあ、それも自分の責任だから、しゃあない。じゃあ、今が最高に腕がいいかというと、それもまた違う。年を取れば取るほど腕は磨かれるってみんな信じて錯覚してるけど、うかうかしてると、腕は落ちるんですよ。視力や体力が衰えてきてるのに、漫然と仕事をしていたら、質は落ちていくでしょう。そうならないように、腕をキープしようと考えてるから、何年経っても技術の習得に終わりはないんですよ」 |
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