──翌年、村上龍が芥川賞を受賞した『限りなく透明に近いブルー』の映画化にあたり、再び、三田村さんのもとに主演の話が舞い込む。

「それもまた、断るんですよ(笑)。蜷川さんには『お前、馬鹿を通り越して、何がやりたいのかわからねえ』と言われましたけど、僕は、劇団で好きな芝居ができたらそれでよかったんですよね。役者で有名になりたいわけではなく、純粋に、芝居ができたらそれでよかった。でも、僕はそれでいいけど、原作者の村上龍さんは納得がいかなかったらしく、僕に直接会って断った理由が聞きたいという連絡がきたんです。だけど、それさえも僕は断った。なぜならば、日給が1440円の時代に、千円以上する原作本を読んで、僕は4ページぐらいしか読まずゴミ箱に捨ててしまっていたんですから(笑)。それを演じることなんて、とてもじゃないけど、できませんよね」
──幾度かのやりとりを経て、村上龍さんとお会いする。結果としてそれが、役者人生の転機となる。

「本を捨てたことも含めて、素直にいろいろ話し合ううちに、村上さんが『俺とお前は真逆だよな』と、こう言うんです。そして、僕に合うように台本を書き変えてくださったんですね。それが、映画として公開された『限りなく透明に近いブルー』なんです」

──初主演映画が公開されてから、今年でちょうど30年が経つ。しかし、どれだけ月日が流れようとも、演じることの楽しさだけは今も昔も変わることがないという。

「芝居にはこれが正解という答えがないから、いつまでたっても、好奇心を持って取り組めるんですよね。そして、幸せだなと思うのは、役者には定年がないことです。60歳や70歳を過ぎても、好きなことを生活の糧にしていけるのは、本当に幸せなことだなと最近つくづく思います。その反面、年齢には関係なく、全力で走らなければいけなかったり、誰かを抱き上げて助けなきゃいけないときもある。監督に求められたときに『できません』とは言えないから、常に動ける準備だけはしておかなければならないですけど、それが苦痛かと言えばそうじゃないし、本当に恵まれてますよね」

──好きなことだからこそ、芝居の話になると舌も滑らかになる。しかし、もうひとつの好きなこと、お酒と芝居の話の相性はあまりよくないようで……。

「役者仲間と飲んで芝居論にでもなろうものなら、必ず喧嘩になる。芝居の話はやめようねと言って飲み始めても、たいてい途中から芝居の話になりますしね(笑)。熱く語ることも人生には必要だけど、旨い酒と料理は静かに味わう。これが人生の醍醐味ですよ」

どんな場面でも好きな気持ちを貫き通し、自分が心惹かれることに時間を費やす。その生き方が、つまらないはずはない。


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